おはようございます。
5/29に産構審の第6回特許制度小委員会が開催されました。
日刊工業新聞より、「特許を受ける権利の帰属を発明者本人でなく、発明者が所属する企業にも認めることで一致した。」という報道がありました。
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520140530abbj.html
経済産業省・特許庁は29日、特許制度に関する専門委員会を開き、企業内の研究者や技術者による発明(職務発明)について、特許を受ける権利の帰属を発明者本人でなく、発明者が所属する企業にも認めることで一致した。企業が発明者に対する報酬を支払うことを制度的に保証する方向でもまとまった。同庁は7月までに特許法改正の具体案をまとめる。
しかし、現行法でも、職務発明により生じた特許を受ける権利を、会社(使用者)へ予約承継できます。
上記の内容は、日経や読売など大手新聞社から報道されていませんので、少々間違った報道なのかもしれません。
そして、昨日、産構審の第6回議事要旨と配付資料が公開されました。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/tokkyo_seido_menu.htm
議事要旨を読む限り、資料1「職務発明制度の在り方に関する検討」、資料2「制度設計に係る主な考え方の整理」に基づいて議論したということですので、上記のような認識で一致した事実はないのでしょう。
ちなみに全体の議事録は第3回まで公開されていますが、とても話がまとまったようには見えません。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/tokkyo_seido_menu/newtokkyo_003.pdf
現行法には以下の問題があるとされていますが、発明者帰属を法人帰属にすれば解決する問題ではなく、34条1項の対抗要件や発明褒章ガイドライン等策定の問題と思います。
1つ目が二重譲渡の問題、2つ目が帰属の脆弱性の問題、3番目に相当の対価の問題、4番目にチームワークの阻害、5番目にインセンティブ施策に対する制約という内容でございます。
技術流出を防止するためにも法人帰属にすべきという意見もありますが、帰属の問題ではなく、34条の対抗要件に不備があるためと思います。
なお、第3回議事録では、日本企業の有機EL発明者が外国企業へ転職した例が紹介されていますが、事業が傾いて発明者が外国企業へ転職してしまった事例です。
これは、労働者の背信ではなく、経営の失敗によるものです。
ちなみに、Appendix2で2013 年11 月16 日の「週刊ダイヤモンド」の記事を引用しております。「サムスンに貢献した日本人技術者ランキング」ということで、1番から30 位まで出ていますが、例えば1番の方は、元々三洋電機さんにおられてサムスンに転職された。この方の専門は有機EL であったということです
以下の土田委員コメントが、現状を良く表しているという印象です。
一方で現行法があるのに対して、今日の産業界のペーパーは、180 度変更せよという話ですよ。法人帰属にして、発明者の請求権も廃止するという提案です。しかし、もう一つ、先ほどから議論が少し進んできて出てきているのは、その間の中間的な制度設計はないかということです。
例えば法人帰属にした場合にも、先ほど言ったとおり発明者の報償請求権あるいは大渕委員長の言われているような発明規程作成の義務づけといった幾つかの制度設計はありうると思うのですね。すべて今日の産業界の御提案にのって報償請求権の概念もなくした場合には、さっきから話が出ているとおり人事考課の世界になります。人事考課は、井上委員がおっしゃったように基本的には企業の裁量権なのであって、その場合は従来の堅牢な特許法の規律はなくなるわけですから、発明者の処遇は後退すると思います。
今、日本も雇用の流動化の社会になって、発明者が処遇に不満であれば退職の自由があるという御発言がありましたが、日本はそういう世界ではないと思います。少なくとも、そうあるべきかもしれないけれども、現実の世界はそうではないわけです。