独立行政法人経済産業研究所の論文ダイジェストです。
特許の権利範囲の広さを。請求項の長さにより評価し、審査の結果、権利範囲が狭くなったもの、変わらないもの、広くなったものを分析しています。
請求項の長さだけでは、権利範囲を正確に計ることはできませんが、簡略したモデルにより多くの公報を分析できる点は評価できます。
特許権者が明細書中で開示した先行技術の質が高い場合には、権利範囲が縮減された出願の割合および縮減の程度はともに減少するとのことです。
これは、先行技術の質の問題というよりは、あらかじめ先行技術調査をしておけば、補正の必要性が少なくなるという意味でしょう。モデルとしては、それほど実務とずれていないことになります。
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/nts/16e092.html
1.問題意識
特許権の権利範囲の広さが、出願された発明の技術水準に対する貢献に見合ったものになっているということは、特許制度がイノベーションを促進するための最も重要な要件の1つである。特許権者はできる限り広い権利範囲を設定しようとするため、特許権の権利範囲を適正な範囲に縮減することは特許審査の重要な役割である。本研究は、このような特許審査の役割に関する初の本格的な実証研究である。
2.分析手法
本研究は、権利範囲の計測手法として、次のことを特徴としている。第1に、特許権の権利範囲は各請求項の記述により特定されているところ、通常、第一請求項が最も広い概念範囲を有していること、および、請求項の記述の長さは権利範囲を限定する要素の数と正の相関があるから権利範囲の広さと負の相関があることに着目し、特許権の権利範囲の広さを請求項1の文字数の逆数で計測した。第2に、特許公報の第一請求項と公開公報の第一請求項を比較することにより、特許になった出願の審査の結果を1)権利範囲が狭くなったもの(記述が長くなったもの)、2)当初の権利範囲で特許が設定登録されたもの(記述の長さが変化しなかったもの)および3)「権利範囲が広くなったもの」(記述が短くなったもの)に分類した。なお「権利範囲が広くなったもの」は、請求項の記載における選択肢の削除などにより記述が短くなり、権利範囲が実際は狭くなったものも含まれる。第3に、特許権者(出願人)は、特許明細書で当該発明の先行技術を開示するところ、その開示の質の計測手法として、審査官が当該出願の審査において引用した全先行技術のうち特許権者が特許明細書で予め開示した先行技術の割合を用いた。第4に、発明を物の発明と方法の発明に自動仕分けし、大部分を占める物の発明について分析を行った。