週末にINFOSTA会誌情報の科学と技術2015年7月号が届いて、特集の「特許調査の現状と課題」にはそれぞれに記事に2回、目を通しました。
http://www.infosta.or.jp/journals/201507-ja/
知財高裁の裁判官は、知財の判例評釈に全て目を通しているそうですが、自分も特許調査関係の論文や書籍は、可能な限り全て読むようにしています。
いつものことですが、INFOSTA会誌は発行から到着まで待たされます。
INFOSTAは会員が減っているとのことですが、運営に支障はないのでしょうか?
「化学分野における特許調査の現状と課題」については、化学構造式の検索など、自分の知らない話が多く、大変勉強になりました。他の論文については、自分が知っていることが多かったです。
もっとも自分も調査のプロですから、知らないことばかりで目から鱗という、調査の論文はめったにないです。
「特許調査の現状と課題」では、先日もブログに書きましたが、CPCを日本にも導入して欲しいという要望も書かれています。
http://ameblo.jp/123search/entry-12044958229.html
日本の調査ではFI/Fタームを、外国調査ではIPC、2000シリーズを含めたCPCを調べなければならず、煩雑だからという意見です。
しかし、同じ発明について日本と外国の調査を行う際には、日本はFI/Fターム、外国はIPC/USC/CPCを使って検索していますが、外国調査の精度は日本調査ほど上がりません。
FI/FTは合計50万以上に細分化されており、付与観点も多彩ですから、日本がCPC中心へ移行するのは現実的ではありません。
そもそも、分類を調べるのが煩雑だから、CPCに統一して欲しいというのは、サーチャーのコメントとして、どうなのでしょうか。
「特許調査,特に権利調査における現状と課題」では、「事務用ハサミ」を例に、侵害予防調査の調査母集団設計が述べられています。確かに侵害予防調査では、対象を拡げすぎると母集団の件数が大幅に増加し、調査が困難になります。
しかし、ハサミを権利化する場合に、「事務用ハサミ」に限定したクレームを書く方は少数です。やはり「ハサミ一般」の調査が必須でしょう。
一方で、侵害予防調査では、特許にならない範囲まで検索する必要はありません。
要は、「切断器具」のような広い概念に対しては構成を限定した検索を行い、「事務用ハサミ」のような狭い概念に対しては構成をあまり限定しない検索をすれば済むケースも少なくありません。
また、広すぎる概念は特許にならないため、生死情報でフィルタすれば、調査対象から外れる場合がほとんどです。概念を拡げたからといって、必ずしも調査が困難になる訳ではありません。
「電気分野における特許調査の現状と課題」は、半導体メーカーの社内弁理士執筆です。
設計のチェックポイントごとに開発者に特許分類を使った検索を行わせ、製品開発完了時にはすべての侵害防止調査が実施される体制とのことです。請求項の読み方についても、技術者へ教育しているとのことです。
大変素晴らしい会社です。侵害防止調査に関しては、おそらく日本一でしょう。
ただ、技術者にとって特許分類を使った検索が難しいからこそ、概念検索や初心者向けのキーワード検索画面が用意されている現実があります。
技術者の中には検索が上手で、かつ請求項が読める方もおられるでしょうが、そのような方が多数派でないことは、周知の事実と思います。
「海外特許調査の現状と課題」では、欧米のデータベースには生死情報など法的状況が収録されていないケースが多いと書かれています。しかし、Orbit.comやPatentSquareなど生死情報フィルタが可能な外国特許データベースも出てきており、状況は変わってきているように思います。
日本の調査会社レベルは世界トップクラスという記載もありますが、上述の通り、FI/FTが非常に精緻なため、検索精度が高い面もあるとは思います。
得てして、経験が少なく良く知らない分野については、理想論を書きがちですが、論文から著者の力量が垣間見える面もあり、興味深かったです。