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Channel: 知的財産と調査
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世界標準から立ち遅れた日本?

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おはようございます。


数日前ですが、「知財立国が危ない」の書評に、事実と全く違うことが書かれていましたので、1つ1つ反論したいと思います。


書評は、昭和女子大学特命教授の八代 尚宏氏によるものですが、氏は経済学者で知財の専門家ではないようです。


上記のように、この本は知財の専門家でない方へ誤解を生じさせており、非常に問題だと思っています。


http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85254600T00C15A4MZC001/

「まず日本の知財裁判の後進性を訴える。(1)企業が知的財産権の侵害を訴えても容易に勝てない」

日本では勝訴的和解を含めれば勝訴率が4割のため、諸外国に比べて特段低くはありません。



「(2)勝ったとしても補償金の水準が米国の100分の1と低い」

米国より損害額が低いのは確かですが、100分の1ではありません。数十分の1でしょう。一桁違っています。

なお、米国の市場規模は日本の3倍、それに米国では懲罰的賠償で3倍賠償が認められますので、賠償額が一桁大きくなる傾向にあります。




「(3)判決が出るまでの時間が長い――の3点をあげている。こうした現状を改善し、特許庁は内外の国際企業に魅力的なサービス提供を目指すべきだという。」

特許訴訟の地裁平均審理期間は、米国約30ヶ月、ドイツ約15ヶ月、日本約16ヶ月ですから、事実と違います。



「また、増える模倣品の輸入についても、税関の奮闘にもかかわらず、特許を専門とする弁護士の不足や高い手数料が、大きな制約となっている。これらに対して、中小企業の利益を代弁する「国選弁護人」活用という提案は興味深い。」

日本の弁護士費用は、米国など諸外国に比べて高くありません。

特許など知財を専門とする弁護士は増加しており、不足という話は聞きません。むしろ弁護士の増加や司法試験受験生の減少ほうが深刻です。



「スポーツの世界記録は、どの国で達成されても認められるが、発明の審査は属地主義だ。特に日本の裁判所の判決が国際標準とかけ離れていることは、日本企業にとって不利な要因となる。欧州連合(EU)では一つの加盟国で承認された特許は、すべての加盟国で使える。日本もEUなどとの特許の相互認証を進め、「世界共通特許」を目指して取り組む必要がある。」

欧州等との統一特許は長期的な課題でしょうが、現在、日米欧等の特許制度の違いを減らす努力がなさている最中です。また、日本の知財判決は、外国でもその合理性、的確性が高く評価されています。そういった現状を見ずに、日本の特許制度や特許判決が特異であると批判するのは、理解できません。



「日本人のノーベル賞受賞者が増えても、独創的な研究成果の特許が日本企業の売上高や利益の増加に貢献していない。研究開発と一体的な経営戦略の不足によるものであり、韓国や台湾企業にも後れている。」

特許には、ライセンス料などを取るという活用だけでなく、自社の技術や製品を模倣から守る役割があります。韓国や台湾企業に後れているというのは、個別の企業の話であって、日本企業の大半が韓国や台湾企業に後れている訳ではないでしょう。何を根拠に後れていると決める付けるのでしょうか。



「特許庁長官という知財戦略の重要ポストが1年交代と軽視される官僚人事、司法試験合格者数の抑制に伴う質の高い法曹の不足、大企業内で知財の専門家を育てない日本的な雇用慣行などは日本経済の空洞化をもたらす要因だ。」

法曹の質が低下しているのだとすれば、合格者の抑制が原因ではなく、法科大学院の不人気が原因でしょう。法科大学院と司法試験の受験者減少が原因を示唆しています。

また、昔は知財部にはエンジニアを引退した方が行っていましたが、現在は新卒や若手のスタッフも増えています。新卒で知財部へ配属されることの是非はともかく、大企業が知財専門家を育てないというのは、明らかに事実と違います。


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