こんばんは。
雪もかなり溶けてきましたが、水浸しという場所もあるようですね。
今年からSankeiBizの「生かせ!知財ビジネス」は、月曜日更新から土曜日更新に変わったようですが、毎回楽しみにしています。
今回は小保方さんらのSTAP細胞PCT出願について、採り上げられています。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/140215/cpd1402150500002-n1.htm
【生かせ!知財ビジネス】STAP細胞陣営の特許戦略に注目 (1/2ページ)
ところで本発明は特許になるのか。発明を否定できる先行技術文献「X文献」が多数存在するのが気になる。
「請求権利範囲が非常に広い。全74のクレーム(請求項)の第1クレーム“細胞へ刺激を与えて多能性細胞を生成する方法”が独立請求項で、他が従属請求項。製法特許が成立してもライセンスや権利の侵害の立証は難しいのでは」(政府系機関の知財担当)と懸念する。
米知財法律事務所の弁護士は「独立請求項の権利範囲が広すぎるため各国特許庁の審査へ移行した際に拒絶される可能性がある。独立請求項に限定条件を入れることになるかもしれない。ライセンスなどの権利行使を考慮すると製法だけではなく、生成物(STAP細胞)に対する請求項があるほうが望ましい」とアドバイスし、強力なロビイストの米国医薬・医療機器業界がどう動くかも権利成立に影響を与える可能性があると指摘する。
記事では、複数の識者にインタビューしたとのことですが、内容が省略されてしまったのでしょうか、正しく伝えられていないと感じます。
確かに、Claim1(請求項1)については、以下のように非常に広く、このまま各国で特許されるとは考えにくいです。
A method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress.
しかし、請求項1を狭い権利として出願するケースはあまりありません。通常は請求項1など上位クレームには、新規性があるかないかギリギリの広いクレームを記載し、審査官の拒絶引用例やPCTの国際調査報告等に記載された先行技術を見ながら補正して、適切な広さの請求項にして権利化します。
時々、あの弁理士さんは拒絶理由通知を受けることなく、一発で特許査定になったので、優秀で良心的というようなことを言われる方もいます。
適切な権利範囲で早期権利化されたのであれば良いのですが、一発で特許査定になるのは、出願時の請求項が狭すぎるケースが多いと言えます。ですから、一発特許査定を無邪気に喜ぶのは、ちょっと違うのではと思います。
もちろん、意匠のように減縮補正ができないものは、きちんとした先行調査をして、拒絶理由通知を受けることなく、登録されることが望ましいと言えます。
次に、方法(製法)の特許が権利行使しにくいというのは、一般論としては正しいと思います。
しかし、この国際出願はアメリカの仮出願を優先権の基礎としており、アメリカの特許制度を前提に請求項が記載されていると考えられます。
ご存じのように、アメリカではディスカバリーの制度があり、方法特許であっても比較的行使しやすいと言われています。それに、日本と違ってアメリカでは方法と物でカテゴリーが異なると、単一性がないと判断される場合もあります。
この出願が方法の請求項のみからなるのは、アメリカの代理人が扱っているためと思われます。
なお、日本でも特許104条の2に具体的態様の明示義務規定があり、かつてに比べると、方法特許の行使もしやすくなっているという意見もあります。
それから、物の請求項として権利化できないのかというと、そうではありません。明細書中にはSTAP細胞の製法だけでなく、当然STAP細胞とそれに関連する物が記載されています。
つまり、出願の補正や分割出願を行うことにより、物の請求項でも権利化は可能です。この記事では肝心な部分が抜け落ちてしまっています。
最後に出願戦略の話ですが、アメリカには一部継続出願という、優先日から1年経過後でも、新規事項の実施例やクレームを追加できる制度があります。日本などその他の国にはない制度ですので、新たな実験等をして、1年経過後に改良発明が生まれた場合には、アメリカ以外では別出願をする必要があります。
ですから、新たな研究テーマを定めて、応用技術を開発して次々と出願するのは、基本的に特許事務所や法律事務所の守備範囲ではなく、出願人の仕事になります。
そのため、ハーバード大学の関連団体やボストンの大手法律事務所を使えば、強力な出願戦略が練られるかというと、必ずしもそうではないと思います。
出願戦略を主体的に練るのは、研究を実施し、発明を生み出す理化学研究所です。特許事務所や法律事務所は出願のアドバイスはしますが、研究戦略まで立てることは通常ありません。