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視点 見えざる資産の出現:無形資産と制度会計

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以下も、情報管理webの2016年3月号記事です。

東京理科大学MIPの石井 康之教授が、無形資産と制度会計について、解説しています。


Googleが購入したモトローラ特許に関する考察など、興味深いですね。


https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/58/12/58_924/_html/-char/ja/ 

1. 無形資産-見えざる資産

通常,特許やブランドなどの知的財産や顧客愛顧といった「無形資産」が,自社の会計帳簿に資産として計上されることは,特別な場合を除いてほとんどないといってよいであろう。わが国の会計制度によれば,資産は別段の定めがない限りその「取得価額」で記載されるべきとされ,無形資産を外部から取得し,その取得価額が支出として認識されない限り,その価値が資産として把握されることはない注1)


たとえば,ブランド力をもった商標が顧客に広く認知されるのは,ひとつには広告宣伝の積み重ね等による。また顧客から愛顧を受けるのは,従業員の絶えざる顧客サービスの努力などによる。こうした広告宣伝費や,従業員に支払われる俸給や教育研修費は,支払った年度の経費として処理され,資産に計上されることはない。また,特許などの技術資産についてみれば,それを生み出すための研究開発投資(研究開発費)は,会計制度上,支出したその年度の費用として処理することが義務付けられている注2) 1)


そのため,ブランド・商標,顧客愛顧,技術などが,将来の収益獲得の源泉(資産)として,企業の会計帳簿上に計上されることは,通常の事業活動の中ではほとんどないといってよい。それにもかかわらず,こうした経営資源は企業に収益をもたらす資産であるにとどまらず,今日最も重要な資産として位置付けられている。しかし,こうした貴重な資産も自社内で生み出される限り,会計上は「見えざる資産」とならざるをえない2)


さいごに

自社内で創出された無形資産は見えざる資産として,制度会計上,その価値が会計帳簿に記されることはほとんどない。たとえば研究開発費については,「発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であり,また,研究開発計画が進行し,将来の収益の獲得期待が高まったとしても,依然としてその獲得が確実であるとはいえず,そのため研究開発費を資産として貸借対照表に計上することは適当でないと判断」された10)。技術など自社創製の無形資産を,会計上の資産として計上せずその期の費用とすることは,見方によれば利益を控えめに計算し,企業体力を温存するような会計処理を促す企業会計の原則にも通じうるとも考えられる。そこは,それなりの合理的な背景が存在する。

しかし,M&Aなどの取引を経て,突如,無形資産がその姿を現すことがある。M&Aを通して異なる組織体へ飛び出し姿を現したこの資産が,真にその評価額に値する効果を発揮するかどうかは必ずしも定かではない。ここに,無形資産の力と限界の微妙な境界点が見いだされる。


先のGoogle社は,2014年には早々にモトローラ・モビリティ社の事業をレノボ社に再売却してしまった。しかし,大半の特許権はいまだ自社に留め置いている。これら特許権は,Google社の基本OS事業を安定的に遂行させるうえで重要な意義をもつものと期待されている。ただこうした特許が今後,どの程度の効果を発揮するかについては疑問を呈する見解も少なくはない注9)。Google社の事業が引き続き安定的に推移する限り,この無形資産の価値が毀損(きそん)する可能性は低いと考えられるものの,姿を現したこうした無形資産が,今後,その資産の額に見合った価値を真に発揮していくかどうかは,引き続き注視していくことが求められるのであろう。


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